抗酸化物質がガンに手を貸す疑いは晴れた

抗酸化物質をじゅうぶん摂取すれば、DNAに対する活性酸素の被害の程度が減少し、ガンになる可能性が減少すると一般には言われています。これは、ある程度まで事実です。例えば、アメリカのアイオワ州で行われた女性を対象とした研究結果がありますが、それによれば、ビタミンEの摂取量が高い女性は結腸ガンに罹る率が少ない、それもビタミンEの摂取が少ない女性の場合と比べて30%も低いということです。

しかしながら、抗酸化物質の大量摂取すなわちガン発生率の低下という具合に短絡的に考えるのは事実に反します。フィンランドにおける1994年発表のATBCテストと呼ばれる臨床試験で、長期にわたる喫煙者にビタミンEとベータカロチンを補助食品として投与した例があります。結果は、全体としては混乱を招くもので、多くの活性酸素の研究者をいたずらに抗酸化物質に対して慎重な態度をとらせるだけに終わっています。

ビタミンE投与グループの中で前立腺ガンが34%低下という結果もあります。期待以上と言うべき結果です。出血の増加という歓迎すべからざる副作用も伴いましたが、ビタミンEを使用するからには、本来その副作用自体が予期すべきものですし、テスト計画自体にも計画上の無理があったとも思われます。喫煙者のビタミンCレベル低下は周知の事実ですし、被験者の多くは軽度の壊血病と見なしても良いくらいです。受動喫煙者のビタミンCレベルも低下します。この場合の出血は血管内壁の損傷によるもので、喫煙者の中に冠状動脈あるいは末梢血管の疾患に罹り易い人が多い理由の1つです。ビタミンEは元来血液の凝固を防ぐ働きがありますので、ビタミンEの追加補助という考え自体が出血に対する備えが当然ながら伴っていてしかるべきものです。この臨床例はむしろ抗酸化物質の単独使用に対する反面教師としての良い例と言うべきでしょう。あらかじめ被験者にはビタミンCとフラボノイドをテスト開始前あるいはテスト期間中に投与すべきでしょう。

もっと憂慮すべきなのは、ベータカロチン投与グループの中で肺ガンが有意に増加したという点です。これは全く予期せざる結果です。ベータカロチンは典型的な抗酸化物質であり、免疫強化機能もあるからです。が同時に、動物でも人間でも、悪性病変を抑止する、それもおそらくガン細胞と正常細胞の間のコミュニケーションを改善し、接触抑制を復元するから、と考えられているからです。ごく最近、ビタミンEとベータカロチンの組み合わせが非喫煙者の肺ガン防止に効果ありとの結果が出ました。やはりフィンランドにおける喫煙者の肺ガン増加の研究結果には意味があるのか否か、筆者にとっては疑問です。

この研究の正式な報告書の中で、医師も研究者も、この発見結果の発表に積極的な姿勢を見せていません。そして、統計的には有意であるにもかかわらず、この結果について「おそらく偶然による」と述べているのです。(科学文献に親しむ人にとって、このような発言がいかに普通でないかは判ります。抗酸化物質の抗ガン性という論理の基本を信じる者にとって、このような「否定的発見」がどれほど不愉快かということも良く判ります)。

あえて再度言いますが、これはテスト計画自体が誤っていた言うべきです。このケースでの喫煙者はすでに何年も喫煙を続けていたのであり、肺ガンの発現までの期間が10年以上という事実を考慮すると、テスト開始以前に肺ガンはすでに被験者の肺に存在していたと考える方が理屈に合っていると思います。最近のデータでも元喫煙者の肺ガン罹病率は非喫煙者の8倍というデータがあります。この場合「元喫煙者」というのはタバコを止めてから何と15年も経過した人なのです。今日摂取する抗酸化物質が、昨日発生した活性酸素の害から身を守ることはありません。当たり前ですが、いかなる抗酸化物質でも時を遡ることは不可能です。

抗酸化物質の補助食品が実際にガンの原因になると信じている専門家はほとんどいません。しかし、前述のフィンランド・レポートのように被験者の肺ガン罹患数の増加ということを見過ごしにするわけにもいきません。そして、抗酸化物質の追加・補助摂取が既存ガンの進行の促進因子として働く可能性を再検討する必要があると思います。言い方を変えれば、抗酸化物質(特にベータカロチン)にほんとうにガン促進効果が有るのか否かについての再確認が必要です。

文献的には、ある一定の条件下で、抗酸化物質がガンを促進するという疑惑もあります。人体内で抗酸化物質と多価不飽和脂肪酸とのバランスに関係するように思われます。

細胞膜の中の多価不飽和脂肪酸は活性酸素による酸化に対して極度に弱いものです。1度この酸化が多価不飽和脂肪酸の分子に起こると、それは脂質酸遊離基(脂肪酸ラジカル)になり、放置すれば、そのまま酸化の連鎖反応が始まり、最後は細胞破壊に至ります。通常の条件では、この連鎖反応は起こりません。ビタミンEのような抗酸化物質が細胞膜の内部に集中して酸化を妨ぐからです。また、多価不飽和脂肪酸は分画化されており、細胞膜の中の化学的な防火壁によって分離されているからでもあります。ここで細胞膜の構造が破壊されると、多価不飽和脂肪酸の内容が急速に酸化されることになります。ただし、脂肪酸ラジカルは破壊的に働くだけではありません。これら細胞内部の活性の高い分子のレベルが重要な信号因子だと示す証拠があります。脂肪酸ラジカルのレベルは分裂を始める直前に細胞内部で低下するのです。そして事実、この突然のレベルダウンこそが細胞分裂の引き金となる因子の1つと考えられているのです。全く理にかなったことです。細胞が分裂する時、そのDNAは配置を変え、抗酸化物質のヒストンの防壁を失い、活性酸素の攻撃に対して非常に脆くなります。この時点で活性酸素の発生は避けたいものです。これこそが、ガンを含む急速な分裂をする組織が、通常以上の高い細胞間抗酸化物質を持つ理由です。

ガン細胞は正常な細胞とは色々な点で異なります。ガン細胞がその細胞膜にもつ多価不飽和脂肪酸レベルは正常値以下の低いレベルです。多分これはガン細胞の自己防衛メカニズムの1つと思われます。ガン細胞は多価不飽和脂肪酸をうまく取り扱うことが出来ないのです。ガン細胞に対して、多価不飽和脂肪酸を与えれば、多量の脂肪酸ラジカルを発生させ、ガン細胞自身が自己破壊になるからです。その理由は、ガン細胞が持つ抗酸化物質の量が少ないからなのではありません。ガン細胞の持つビタミンEのレベルは通常以上に高いのです。その代わりに、ガン細胞は、その細胞膜において多価不飽和脂肪酸を分画化する能力がないのが理由のように思われます。これが意味するところは、多価不飽和脂肪酸の分子を少量だけ酸化することが活性酸素形成の連鎖反応を引き起こし、その連鎖反応がやがてガン細胞自身を破壊するというシナリオです。

細胞内部の活性酸素レベルが高いと、それは細胞分裂に抑制的に働きます。従って成長をもストップします。レベルがもっと高くなれば細胞は死にます。だから、その素性からしても、生き残り、分裂するガン細胞は、多価不飽和脂肪酸の酸化と、その結果としての脂肪酸ラジカルの形成を最低限に抑える何らかの方法を持っているに違いありません。ガン細胞の中に発見される大量のビタミンEは前述のガン細胞の生き残り戦略の一部です。でもガン細胞はまだまだ奥の手を隠しているようです。ガン細胞は、特に酵素が脂肪酸ラジカルの払拭に関係した場合には、抗酸化酵素の発生量を増加させます。それだけでなく、血中から通常の細胞よりも少ない量の多価不飽和脂肪酸しか取り込まないという方法で自己防衛をします。勿論、自分自身の多価不飽和脂肪酸の合成は減らします。ガン細胞が多価不飽和脂肪酸レベルを低くすればするほど、ガン細胞は悪質になり、転移性を増やすのは事実です。

仮に、ガン細胞に対して「力づく」で充分なる量の多価不飽和脂肪酸を与えることができれば、ガン細胞は自滅します。その理由は脂肪酸ラジカルの爆発的形成です。これは腫瘍学者にはおなじみの考えです。放射線療法などの多くの抗ガン療法はガン細胞内部において致命的な量の活性酸素を発生させようというのが基本コンセプトとなっています。

ということは、月見草オイルのようなガンマ・リノレン酸(GLA=今後この呼称に統一します)、あるいは魚油に含まれるオメガ3などの多価不飽和脂肪酸が抗ガン剤として働くのでしょうか? このアプローチは試験管レベルでは驚くほど効果があることが確認されています。ペトリ皿の中でのガン細胞は、正常な細胞より大きく肥大しますが、多価不飽和脂肪酸を与えると、その反対の現象が起こります。つまり、正常細胞が支配的になるのです。動物実験では、GLAの大量投与はガン細胞の成長を抑制します。これは、ヒトのガン細胞を移植したマウスについても確認されています。腫瘍の発生と成長がともに抑制されるのです。

このような好結果に刺激されたのでしょう、1990年代に英国のスコチア製薬(Scotia Pharmaceuticals)社がスポンサーになってGLA大量投与の臨床テストが初めて行われることになりました。被験者は外科手術の困難な膵臓ガン患者でした。その結果として判明したのは、リチウム塩の形でのGLA投与の量と生存率との間に有意な関係があるということでした。この研究は現在も継続中です。

通常の化学療法に用いられる各種の薬物と異なって、多価不飽和脂肪酸の場合は、正常細胞に対して毒性がありません。正常細胞は多価不飽和脂肪酸をガン細胞ほどは酸化させません。正常細胞が持つ抗酸化物質の含有量はガン細胞に比べて少ないので、正常細胞の多価不飽和脂肪酸に対する反応の鈍さはすなわち、正常細胞の細胞膜における多価不飽和脂肪酸の分画化能力が高いことを意味します。事実、多価不飽和脂肪酸の正常細胞に対する治療効果は明らかです。放射線傷害の大部分は、多価不飽和脂肪酸の細胞膜からの損失に起因するものであり、放射線療法によって発生する組織の損傷は多価不飽和脂肪酸交換療法によって最低限に抑えられます。

ガン細胞が多価不飽和脂肪酸の酸化に由来する脂肪酸ラジカルに対してのみ反応するという仮説は、ガン細胞が、多価不飽和脂肪酸を投与された場合に、細胞破壊が抗酸化物質によって抑制されるという事実、また、反対に、鉄塩基と銅塩基のような酸化促進性物質によって細胞破壊が増加するという事実によって更に裏付けされます。そして、この事実は、遠回りにはなりましたが、フィンランドにおける臨床テストの結果、すなわち、抗酸化物質投与の被験者グループに肺ガンのケースが増えたという結果に対する説明の1つにもなるわけです。

細胞は体内で常にガン化しているという説は広く受け入れられています。にもかかわらず、その大部分は実際の脅威になって現れてこないのはなぜでしょうか?その理由は、免疫システムが常に監視してガン化細胞を取り除いているからです。しかし、それだけではなく、もっと他の理由もあるかも知れません。前述のように、多価不飽和脂肪酸の酸化から身を守れないガン細胞は自己破壊する傾向を持っています。

生き残りなお増殖するために、ガン細胞はこれらの不安定な分子から身を守る方法を見つけなければなりません。その1つは、ガン細胞が自分の多価不飽和脂肪酸合成をストップし、その抗酸化物質の合成レベルを引き上げることです。しかし、それだけでは不十分で、多くの場合は、ガン細胞は代謝制御が狂い、自分自身を破壊してしまいます。おそらく、このことが、50才前にガンが発症するケースがまれである理由と考えられます。

しかし、発ガンのイニシエーションの率が増加すると、喫煙者に見られるように、そしてその喫煙者が抗酸化物質を摂取している場合、ガン細胞が多価不飽和脂肪酸の酸化という危険から逃れるチャンスは増加します。この場合は抗酸化物質の摂取が多価不飽和脂肪酸の防壁ガードを低くすることとなり、すでに存在するガンに対してプロモーターの役割を果たすという仮説になるわけです。

もし、これが事実とすると、抗酸化物質の摂取は、若いうちに摂取をスタートすれば発ガン率を下げますが、年輩者の場合は全く違うという事になります。ましてや、摂取開始の時点ですでにガンが存在する可能性が高い場合は、抗酸化物質の摂取よりも、むしろ優先して試みるべき事はガン細胞に対する栄養遮断の方法です。この仮説による抗ガン対策は、多価不飽和脂肪酸の大量摂取を中心として、これに加えて、加圧酸素のような酸化促進物質、長時間の有酸素運動、エレウテロコカスのような免疫強化物質の摂取、という組み合わせになりましょう。ガンの存在が臨床的に明らかになるぐらいにガンが進んだケースでは、別のアプローチが必要となることは改めて言うまでもありません。

第六章 抗酸化物質がガンに手を貸す疑いは晴れた

クレイトン博士の「英国流医食同源」 〜発ガン性物質があふれる現代を賢く生きる〜(翻訳版)の内容を転載しています。

当コンテンツは、現代人の食生活に関する問題や身体を守る抗酸化物質に関する豊富な研究結果を元に、多くの消費者の誤解の本質を解き、健康な食生活の実践を啓蒙している、論文『クレイトン博士の「英国流医食同源」〜発ガン性物質があふれる現代を賢く生きる〜』の内容を転載しております。

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