マンガンとアルツハイマー

ここから取りあえず二つの結論が導き出されます。一つは、慢性的なマンガン欠乏がアルツハイマーの原因になり得ると同時に、この病気の場合になぜタウ・ホスファターゼ酵素の活性が不十分かを説明しています。二つ目の結論は、マンガン補助サプリメントがアルツハイマーの進行をストップ、あるいは治療にさえ役に立つ可能性があるという事です。

どれだけの量のマンガンを摂取すべきかという問題があります。臨床的なガイドラインはまだありません。しかし、1日当たり50ミリグラムのマンガン・グルコネートを摂取すれば、タウ・ホスファターゼ酵素を最大限に活性化させるに十分なほどのマンガンを脳に与えます。これは、この必須微量栄養素の摂取量として安全な範囲にあると言えます。マンガン補助サプリメントはタウ・タンパクを通常に戻します。そのこと自体が軸索内の通行を回復し、影響を受けた神経単位(ニューロン)の更なる変性をストップし、破損した軸索と軸索終末(訳注三)の再成長を可能にします。最後に一つだけ注意事項を申し上げます。マンガン補助サプリメントは肝臓疾患のある患者は摂取すべきではありません。この場合は、体内および脳内に蓄積されたマンガンは毒性に働く可能性があるからです。

それではマンガンが答えのすべてなのでしょうか?それはおそらく違います。

この章をスタートしたとき、筆者がまずアルミニウムを話題としたことを読者は記憶されていると思ういます。筆者自身を含めた多くの科学者が一時はアルミニウムこそがアルツハイマー病の真犯人と信じていた時期があったのは事実です。この「マンガン説」は「アルミニウム犯人信者」がまったく誤っていると示唆しているのでしょうか?それとも、反対にマンガン説信者が誤っているのでしょうか? 今のところは「イエス」でもあり「ノー」でもあり、まさに混乱状態の真っ只中です。

実際のところ、このマンガン説は科学というものがどのようにして発展するかを示す一つの生きたサンプルのようなものです。旧い理論が、新しい証拠により打破されて、より優れた説によって取って代わられるまでは生き残っていくという、科学的な理論上の対決というものを信じておられる非専門家の方々は多いと思います。この種の考え方の上でのクーデターは実際にいつも起こっているのは事実です。しかし、それまで完璧と考えられていた旧い考えが、新しい知見によって、より大きな全体知識の一部に吸収・収斂されるというような、いわば「革命的変化」というような大きな変化ではありません。

アルミニウムがアルツハイマー病の原因であるとする説の証拠には大きなギャップこそ常に存在してはいましたが、アルミニウムが脳にダメージを与えるという証拠はあまりにも多く、したがってアルミニウム犯人説は容易に死に絶えなかった訳です。今のところ、マンガン欠乏原因説の方がアルミ過剰説より有利に見えます、しかし、両者をより詳細に比較検討してみると、必ずしもそうとは言い切れません。ましてや、より新しい発見、つまり亜鉛がアルツハイマー患者の状態を悪化させる可能性が報告されているのです。

アルミニウムは、ただ脳細胞にとって非常に毒性が強いのみならず、マンガンの代謝にも競合的に関係します。たとえば、読者の中のどなたかのマンガン量が低いとします。そういう状態でアルミニウムに露出すると、それは深刻なマンガン欠乏症になり、それがアルツハイマーへと至る、ということになるからです。一方で、マンガンの豊富な食事を摂取していれば、アルミニウムに対しての抵抗力がそれだけ大きくなるわけです。亜鉛もマンガンと色々な形で競合関係にあります。われわれの多くもそうなのですが、アルツハイマー患者はおそらくマンガン欠乏です。そういう患者に亜鉛を与えると、マンガン欠乏から病状は悪化します。(亜鉛はおそらくもっと直接的に有害と思われます。試験管内テストではアミロイド性の老人斑が増加することが確認されていますので、生体内、特に脳内で同様なことが起こるのは誠に望ましくないわけです)。

マンガンが犯人であるという仮説の検証テストは難しくはありません。したがって、今この瞬間にどこかの研究者のチームがアルツハイマー患者に対してマンガン投与を実行していないはずはないと筆者としては思います。

マンガン仮説が証明されるまでにはより多くの研究が続けられなければならないのは当然として、要約すれば、アルツハイマーの危険があると思われる人々に対しては、マンガン補助サプリメントは実行してみる価値はあると筆者は思います。

もちろん、アルツハイマーにはマンガンだけしか方法がないわけではありません。なにしろ、この病気の発症の仕方が一つだけではないからです。結核は間違いなくマイコバクテリウム属(ヒト型結核菌)によって起こります。アンギナ(狭心症)も心筋への血流の不足によって起こります。しかし、アルツハイマーの場合は、理論的には、一連の障害のいずれかによって、脳の神経細胞の特定部分の機能が着実に失われるのです。前述したような一見して無関係なリスク要因によって発生するのです。言い換えれば、まるで、いくつもの異なった道路があり、そのどれを通ったかが不明なのにアルツハイマーという終点に着いてしまうようなものです。しかし、筆者の意見としては、これらの異なったルートのいずれもが、正しく設計した栄養的アプローチで道路をブロックできそうに思われるのは少なくともグッド・ニュースです。

訳注三、軸索終末。軸索が他の神経細胞とシナプスしており、いくらか拡大していて、終末がこん棒状である。各種の神経伝達物質を含み、化学分析や免疫細胞化学的に証明可能。

第十一章 アルツハイマー病に対する栄養的アプローチ

クレイトン博士の「英国流医食同源」 ~発ガン性物質があふれる現代を賢く生きる~(翻訳版)の内容を転載しています。

当コンテンツは、現代人の食生活に関する問題や身体を守る抗酸化物質に関する豊富な研究結果を元に、多くの消費者の誤解の本質を解き、健康な食生活の実践を啓蒙している、論文『クレイトン博士の「英国流医食同源」~発ガン性物質があふれる現代を賢く生きる~』の内容を転載しております。

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