アルミニウムとアルツハイマー病

まずは、本書の他の章で何度も述べた「百害あって一利なし」の悪名高きあのアルミニウムから始めます。身近にあふれるほど存在するために何となく親しみのあるイメージがありますが、アルミニウムは極度に神経毒性が強い物質です。今から100年も昔の1987年にドイツの科学者テオ・ドルケン(Theo Dolken)はアルミニウム塩をウサギに注射して、それがウサギに脳障害を引き起こす、それも痴呆症に非常に似た症状を起こすことを発見しました。もっと近年になってから、腎臓透析が始まった初期の頃ですが、透析に用いる水の中に混入したアルミニウムにより腎臓病の患者が脳ダメージによって死亡するという例が発生しました。

臨床例から少々逸脱しますが、疫学的事実として、太平洋の孤島グアム島と日本の紀伊半島で、アルミニウム中毒という環境的症例が報告されています。いずれの地域も土壌に含まれるアルミニウム濃度は高いとされており、食物と飲料水から摂取されるアルミニウムが痴呆症と脳の神経病理的変性の犯人であるとされました。

より最近の1991年にイギリスのニューカッスルの研究グループがアルツハイマー病に特有の脳内の「老人斑」と「アルツハイマー性神経原線維変化」の中にアルミニウムを発見しました。また、その翌年の1992年にはカナダのグループがアルツハイマー患者の症状を安定させ、痴呆症とその結果としての死への急ぎ旅から引き戻す治療法について史上初の報告書をまとめて発表しました。その治療のポイントは患者の体内、なかんずく脳からアルミニウムを取り除くことが中心でした。実際の作業は困難かつコストの掛かる化学的な濾過分離プロセスではありましたが、その後の臨床利用への大きな一歩だったと言えましょう。次いで、1994年には腎臓透析中にアルミニウムへの露出を受けた患者が、前頭葉の中の螺旋フィラメントもふくめて脳内でアルツハイマー様の変化が起こっていることが発見されました。

上に述べた研究のすべてはアルミニウムがアルツハイマーに関係する因子の一つであることを示唆していますが、でもアルミニウムだけが犯人と断定するわけにはいかないのも明らかです。実際にアルツハイマーの発病の仕方にはいくつかのパターンがあるようです。遺伝的な要素も5%程度と低いながらも関与が疑われます。頭部の外傷、うつ病、女性の遅い初妊娠、などもこの病気の発症と関わりがあります。これらは、それぞれお互いに関係はまったくありませんが、それでも脳細胞にダメージを与えることは同じです。

現在、世界中で1500万人以上のアルツハイマー病と診断されている人々の発症理由を説明するには上記の要素のいずれもをとっても、とても十分とは思われません。感染症を除くと、一つの病気がこれだけ大きなスケールで発生する場合、環境問題に原因があるという見方をしてみるのは往々にして成果をもたらします。アルツハイマーやパーキンソン症候群のような老年性の変性脳疾患(これらはいずれも急増中ですが)は長期にわたる低レベルの環境的神経毒との接触が原因とするという考えが次第に科学界で地歩を固めつつあります。この考え方によれば、アルミニウムは犯人像にピッタリです。もちろん、容疑者として他に有機溶剤や農薬も考えられます。

一般的には、疫学的に言う変性疾患、つまりアルツハイマー、ガン、心臓疾患、などはすべて栄養不良が犯人です。栄養欠乏がアルツハイマーの原因かも知れないという考えが固まってきたのは、ニューヨークの神経病理学の専門家であるイクバル博士(Dr. Iqbal)の業績によるものであり、同博士はアルツハイマーの研究では世界的に名を知られた人物です。同博士の研究によって、アルツハイマー病の進行プロセスに栄養欠乏が致命的に関係するという考え方が定説になってきたのです。

イクバル博士の業績の意味を理解する目的で、ここで少し神経細胞の基本的成り立ちを振り返ってみることにします。神経細胞は丸みのある形の細胞体あるいは核小体と、軸索(訳注一)と呼ばれる核小体から長く伸びる軸状のニューロンから成り立っています。そして、この軸索がスプレー状態に広がって樹状突起になっています。この神経組織の末端、つまり神経終末は非常に活動が激しい部位で、神経細胞の「作業場」では相当量の組織の損耗が発生していると思われます。自動車に例えれば、損耗した部品は交換が必要なのですが、その交換の作業場は核小体の裏側に位置しています。損傷した部品を神経終末から除き核小体へ戻し、新しい部品を神経終末へ送るには軸索フローを使います。

この作業は、軸索全長にわたって走る一種のコンベアー・ベルトを使って行われます。二車線のベルトで、一つは核小体から新しい部品を運び、必要とされる神経終末へ届けます。他のベルトは破損部品の残骸を神経終末から核小体へ届けます。残骸は核小体でリサイクルされるのです。軸索フローは脳細胞の健康と生活にとって致命的に重要なものです。前記の二車線道路が閉鎖されて、この物流がストップしたら、神経終末がまず死滅します。次いで、軸索が退化変性とでも言うべきゆっくりしたプロセスで死滅し始めます。これはやがて細胞体にまで及びます。この時点まではこの死滅のプロセスの進行防止に対して、なんとか打つべき手がないわけではありません。しかし、この変性プロセスが細胞体に達してしまえば、神経細胞は回復不能な死に至ります。

軸索フローとか退化変性等というと、どうも抽象的な概念に聞こえます、しかし、これらは極めて重要であって、アルツハイマー病を考える場合には避けて通れない大きなポイントと思われます。この新しい考え方は軸索フローを維持することに基づいた治療方法を基礎として、軸索のコンベアー・ベルトを維持することによって神経系を死滅から守ろうとするアイデアです。そして、この考え方は化学的にはすべて可能になっているのです。

このコンベアー・ベルトは微小管と呼ばれるサブ・ユニットから成り立っていますが、この微小管はより小さな部品、すなわちタウ(訳注二)と呼ばれる微小管結合タンパク質から成り立っています。アルツハイマー病の患者の脳には特徴的な二つの病変があり、一つは老人斑で、いま一つはアルツハイマー神経原繊維変化です。老人斑の主な成分はベータ・アミロイドと呼ばれるペプチドであり、これについては後ほど詳述します。いま一つのアルツハイマー神経原繊維変化はタウ・タンパク質からなり、螺旋状の長くペアになった繊維が絡み合った状態になった構造物です。

健全なニューロン(神経単位)ではタウ・タンパク質は分離状態であり、溶解性があり、機能しています。それが突然互いにくっつき合って(比較的)巨大になり、機能しない繊維状構造物になってしまうのはなぜなのでしょうか? 著名な科学者の中のある人々の示唆するところによれば、神経原繊維が自己触媒反応によって結晶化するという説があります。最初はほんのいくつかのタウ・タンパク質が寄り集まって雪だるま現象を起こし、繊維がそこで大きくなるのだと言うものです。仮にこれが本当だとすると、なぜ最初のタウ・タンパク質が寄り集まるのでしょうか?正常なタウはそのようなことはしません。それらのいくつかの異常なタウがどうして発生するのでしょうか?数多くの研究が、アルツハイマーの場合には、ペアになった螺旋状繊維の形をしたタウ・タンパク質が異常なまでにリン酸化した状態、換言すれば、多くのリンのグループがタウ・タンパク質にくっついた状態になるわけです。

ほんの極く最近まで、高リン酸化したタウ・タンパク質の意味をだれも知りませんでしたが、イクバル博士のグループがこれこそが微小管を破壊し軸索フローを阻害する事を示したのです。アルツハイマー病の場合に、神経が退行性の変性のパターンで死に至る、それこそがまさに軸索フローがブロックされたときに発生することであると発見したのも同博士のグループであったのです。

これら二つの重要な証拠が示唆することは、もしもタウ・タンパク質のリン酸化の程度を低下させることが可能なら、軸索フローを修復し、アルツハイマー病の進行をスローダウンし、場合によっては回復さえ可能かも知れないということです。同博士の研究室では大きな成果を上げつつあります。彼らは脳内でタウ・タンパク質がどのようにして変化するのかを研究して、二つのグループの酵素を発見しました。一つはタウ・キナーゼで、タウ・タンパク質にリンのグループを固定させます。そして、今一つはタウ・ホスファターゼで、これはタウ・タンパク質からリンのグループを奪います。

多くのリンのグループを持ったタウ・タンパク質がアルツハイマー発症のプロセスの重要な部分であることを思い起こせば、この研究は軸索フローの回復と神経単位の健康という二つの道を示唆します。タウ・キナーゼ酵素を阻害することによってリンのグループがタウ・タンパク質に追加される割合を遅くします。でも、これはあまり多くを期待できないと思われます。その理由は、いくつかのキナーゼ酵素が関係しますので、それらの全てを阻害すると、おそらくや脳とその他の部位に深刻な毒性問題が起こり得るからです。あるいは、タウ・ホスファターゼを活性化させ、それによって過剰なリンのグループがタウ・タンパク質から奪われる割合を増加させることも可能かも知れません。こちらの方がはるかに可能性が高いと思われます。その理由は、これらの酵素は、アルツハイマー患者の脳組織においては活性が不十分であり、活性化させるには非常に単純に、必須微量栄養素のマンガンがあれば良いからです。

訳注一、軸索(アクソン)。神経細胞突起のうち単一の突起で細胞体やその他の細胞 突起からの神経のインパルス伝導を行う。

訳注二、タウ。微小管結合タンパク質の一種。神経細胞の軸索に主として存在する。アルツハイマーの脳に蓄積する繊維状構造物にリン酸化されたタウが腫瘍構成成分の一つとして含まれることが判明。

第十一章 アルツハイマー病に対する栄養的アプローチ

クレイトン博士の「英国流医食同源」 〜発ガン性物質があふれる現代を賢く生きる〜(翻訳版)の内容を転載しています。

当コンテンツは、現代人の食生活に関する問題や身体を守る抗酸化物質に関する豊富な研究結果を元に、多くの消費者の誤解の本質を解き、健康な食生活の実践を啓蒙している、論文『クレイトン博士の「英国流医食同源」〜発ガン性物質があふれる現代を賢く生きる〜』の内容を転載しております。

安心ガイド
カラダ学術講座
スポンサー広告
ハーブ・成分の効果効能
厳選サプリメント通販